構造化プロジェクトマネジメント(SPM) ケーススタディ - Step 4 -

Step 4: 人をジョブに割り当てる

ステップ4は、計画作りの第二段階です。ステップ2で網羅的に列挙したすべてのジョブに対し、それらを誰がやるのかを決めるのがこのステップです。SPMのやり方は、「コモンセンス・アプローチ」と呼ばれることがあります。つまり、あたりまえの常識に基づいたやり方でプロジェクトを進めていこうという考え方です。そんな常識のひとつに、「仕事は誰かがやらなければ終わらない」というものがあります。これについて少し説明しましょう。

「仕事」は、ステップ2で列挙したジョブのことです。ステップ2では、ゴールに達するまでにやらなければいけない(別な言い方をすると、これだけやれば必ずゴールに達する)という仕事が明確になっているので、それを「誰か」がやればいいのです。あたりまえです。しかし、実際のプロジェクトの現場では、それぞれの仕事にその「誰」という名前がついていないことが往々にしてあります。ここがまず最初の非常識。そして次に、その「誰」が仕事をするかどうか(やるかやらないか)、あるいは仕事をこなすことができるかどうか(できるかできないか)が、終わるか終わらないかのポイントです。

この2点を押さえながら、ジョブに人を割り当てていきましょう。

人を知る

ジョブに人を割り当てる際の注意点がいくつかあります。大きく2つに分けて考えます。

まず、その人がそのジョブに取り組む時間があるかどうか。これはその人の予定を知っておくか、本人に確認することになります。ふたつ目は、「担当者とジョブの相性」といって、担当者とジョブとの関係性を把握する作業です。具体的には、割り当てようとする人が次のパターンの中のどれに属するかを把握します。

  1. その仕事はできる、熱意もある
  2. その仕事はできる、準備ができている
  3. その仕事ができるが、準備はまだ
  4. その仕事をするには、勉強が必要
  5. その仕事はできない

すべての組み合わせが、Aであれば完璧ですが現実はそういうわけにはいきません。しかし、どのパターンなのかが把握できれば、そこからひとつ上のパターンにもっていくためにはなにをやればいいかはそう難しいことではないはずです。

誰がやるかの確認

さて、事例に当てはめた人を見ていきましょう。

タスク 担当者 相性 信頼 コメント
柴犬の成犬の大きさを知る B Y お母さんが伯父さんに電話する
小屋の大きさを決める C Y 伯父さんのアドバイスをもらう
デザインを考える A Y こういうのは得意らしい。帰宅後にやるとのこと
デザインを合意する 全員 A Y 夕食後なら全員集まれる
置き場所と向きを決める C Y 風水も考慮するらしい
置き場所と向きを合意する 全員 A Y 夕食後なら全員集まれる
詳細設計図を作る A N 本人はやる気、会社では営業部長なのだが。帰宅後にやるとのこと
ウィンコンディションをチェックする(全体デザイン) 全員 A Y 全員から意見を聞こう
板取りを考える A N 本人はやる気、大工仕事は好き。帰宅後
必要な材料を列挙する A N 本人はやる気、大工仕事は好き。帰宅後
必要な道具を列挙する A N 本人はやる気、大工仕事は好き。帰宅後
足りない道具を入手する A N 本人はやる気、大工仕事は好き。買いにいくなら週末にしかできない
概算を出す B Y ネットで価格チェックしよう
ウィンコンディションをチェックする(費用) B Y やはりここは大蔵省の出番
買い出しに行く 父/私 A Y 週末にしか行けない
板を切る 父/私 A Y 週末にしかできない
組み立てる 父/私 A Y 週末にしかできない
塗装する 父/私 A Y 週末にしかできない
乾かす 父/私 A Y 週末にしかできない
リードフックを取り付ける 父/私 A Y
所定の場所に置く 父/私 A Y 週末にしかできない
固定する 父/私 A Y 週末にしかできない
マットを敷く A Y 古毛布を母からもらう予定
ウィンコンディションをチェックする(完成チェック) 全員 A Y 昼間でないといけない
シロが到着する


マイルストーン
シロを小屋につなぐ B Y 緊張の一瞬だ
シロを散歩に連れていく D N 犬の散歩などしたことない
ウィンコンディションをチェックする(シロの満足度) 全員 A Y 何日か様子をみた方がいいかもしれない

いかがでしょう。相性に改善が必要なところがいくつかあります。プロジェクトマネージャは、そういったところを中心に仕事を見守っていきます。お母さんが伯父さんに電話している時は横にいて会話を聞くとか、置き場所について事前に話合ってみると、それらのジョブが行なわれる時点までに相性がよくなるかもしれません。また、Dと判断された人は事前にスキルアップの予定を入れるのを忘れてはなりませんし、プロジェクトマネージャはその予定を管理します。上記の例では、散歩のコースやマナーを事前に勉強しておくことが必要です。

相性を示すアルファベットの次の項目はまだ説明していませんでした。その担当者がそのジョブを実行することに対して信頼できるか、ということです。人を信頼するかどうかではありません。あくまで人とジョブのペアにおいて、プロジェクトマネージャがサポートする度合いを判断するひとつの目安として、後で参照しながら行動できるように、計画段階に予めしるしをつけておくわけです。たとえば、「詳細設計図を作る」というジョブはお父さんの仕事になっていますが、営業部長のお父さんにできるのかという意見もあり、少し不安なので信頼度を"N"としています。

人に関して考えるステップ4でもうひとつやることがあります。本人の予定です。期待されるタイミングに割り当てられた仕事にどれくらいの時間を割けるかです。上記の例では、人を割り当てる際に時間的制約などをコメントに書いています。これを見ながらジョブの配置(いつやるか)を調整していきましょう。

まず、前半の準備段階では各自が外出から戻ってから行なう想定で、「帰宅後」あるいは「夕食後」と書いてあります。帰宅が遅くなってできないこともあるかもしれませんが、今のところは大丈夫らしいので、この点についてはステップ5でリスクを考える時に検討しましょう。大きな時間的制約は、小屋を作る実作業担当のお父さんとご自身が週末しか作業ができないということです。買い出しから塗装までの4つのジョブを週末に移動させることを考えます。ただし、2週にわたって週末を使うというのは非現実的なので、まずは買い出しを土曜日に行なうことにして、他のジョブは依存関係で自動的に移動させてみましょう。これにより、それらのジョブに依存しているタスクも移動しますので、次の図のようになります。
Step2iMindMapGantt2.png

ここまでのまとめ

ステップ2で作ったジョブのリストに対し、それぞれのジョブを担当する人を割り当てました。その上で、割り当てられた人とジョブとの相性と信頼度を判断し、さらに、ジョブを実行する時間があるかどうか、それぞれの人の予定を考えました。その結果、お父さんが週末しか大工仕事ができないので、できあがったガントチャートがどうやらこのままでは現実となりそうもないことがわかりました。

ステップ4はここで終わりです。このステップの主旨はあくまでジョブに人を割り当てることであり、それぞれのジョブに人の名前が入ったからこそ、うまくいきそうもないことが発見されたわけです。言い方を変えれば、ステップ4は人とジョブの関係での問題を発見するプロセスです。

ステップ4のPSI

ステップ4のPSIは10点満点で採点します。採点項目は、人と、人の負荷という2種類です。人については、各ジョブに対し担当する人の名前がついているか、そのジョブ-人の相性のパターンを考えているか、信頼度を考えているか、の3点です。続いて、人の負荷ですが、こちらは、それぞれの人の時間が段階的に計画されているか(特定の日に特定の人に仕事が集中していないか)、それぞれの人の日常業務やその他の仕事を考慮したか、休日や休暇は考慮したかをチェックします。

評価 Step 4=8

人について上記の例ではしっかり考えていますので、5点中4点としましょう。また、人の負荷についても、やりきれないほど仕事が集中している日はなく(むしろスカスカ)、各自の予定も考えています。したがって、こちらも5点中4点として、合計でステップ4は8点とします。

うまくいきそうもない計画なのにどうして高得点なのだとお感じになるかもしれません。それはその通りなのですが、ゴールを達成できるか、ステークホルダーの期待を満足させられるか、リスクは考慮したかといった点を考えるのは次のステップ(ステップ5)です。ステップ5ではそういった観点で計画を修正します。ステップ4までで作られた計画は、まだ実行に移せない未完成、未成熟な計画なのです。

このことは次のようなことをお伝えすれば納得していただけるかもしれません。既にお気づきかもしれませんが、ここまででひとつ重要な点を考慮していません。何でしょう。

それは先に挙げたガントチャートの28項目目のマイルストーン、「シロが到着する(9月25日)」です。SPMでは、この日を前提に計画を作るということをしません。シロがやってくる日は決まっていますが、その日に合うような計画を作るとどうしても、努力目標的な、なんとかしよう、といった根拠のないがんばりが計画に紛れ込んでしまいがちです(思い当たりませんか?)。したがって、SPMでは、ゴールや計画をしっかり考える前に既に与えられているような前提は最初の間は無視します。