構造化プロジェクトマネジメント(SPM) ケーススタディ - Step 5 -

Step 5: 計画に余裕と期待を組み込む

ステップ5は、計画を調整する段階で、プロジェクトをキックオフできる状態にします。計画の調整には大きく分けてステップ5aと5bの2種類があります。5aが予測誤差、想定外の事態への対応、5bはステークホルダーの期待を組み込み、ウィンコンディションが満たされていることを確認します。リスク対応計画は前者で行ないます。それぞれ事例で見ていくことにしましょう。

ツール - MS Project

このステップでは、計画を詳細に検討しながら調整していくので、iMindMapのプロジェクトマネジメントモードでは力不足です。そこで、iMindMapからMS Projectへデータを移し、ここからはツールとしてMS Projectを使うことにします。

Step 5a: エラーのためのマージン

ステップ1のPSIを算出した時、ゴールステートメントがF、E、D、Qの4要素をカバーしているかという問いかけがありました。それぞれ機能(Function)、労力(Effort)、時間(Date)、品質(Quality)を意味しています。ステップ5aでは、この4要素を考えながら、各ジョブが余裕をもっているかを調べ、なければ余裕を追加します。プロジェクトではどんなに精緻に計画を立てても必ず想定外のことが起こります。これをエラーと呼びますが、この予測エラーに対応できるよう、余裕をもたせるわけです。いくつか実際のジョブを見ていきましょう。
Step2iMindMapGantt2.png
機能的な面は、上記ガントチャートの項目9にある「設計の合意」まででほとんど決まります。必要な機能(ステップ1で作ったDMMの左上)を実現するのに十分な作業内容と時間でしょうか。設計担当のお父さんは「暑くなく寒くなく」という快適性を実現できるでしょうか。余裕をもたせるとすれば、設計の時間を十分とるか、組み立てた後に改良する時間をとっておくかのどちらかでしょうが、お父さんの信頼度(ステップ4)に不安があることを思い出すと、組み立て(項目19)の後に調整の時間を0.5日いれておくことにします。

大工仕事の段階は、週末にしかできないという"D"の制約があるので、その分を他の要素でカバーしなければなりません。作業時に使えそうな手は労力すなわち人数を増やすこと。項目17の買い出しから項目20の塗装までは、プロジェクトマネージャのあなたとお姉さんも参加することにしましょう。これで所要時間の合計の4日分を2日以内に収めることができるでしょう。

ジョブそれぞれの所要時間については、最初から0.5か1日の単位に切り上げているため、今回は時間的余裕をステップ5aで追加する必要はなさそうです。

さて、そろそろ脇へ退けていた制約条件を考慮しましょう。シロが到着する予定が9月25日だということでした。小屋の作成に2度の週末を使うので、今のままでは少し厳しい状況です。2週目で小屋の固定まで完了しないと25日(その週の金曜)に間に合わなくなります。そこで、ジョブの順序を少し変えましょう。一連の作成作業が「乾かす」で終わるようにします(乾燥は人手が要らないので)。具体的には、「固定する」と「リードフックを取り付ける」を組み立て直後に行なうことにします。

こうしてできたのが以下のガントチャートです。(クリックすると別ウィンドウで拡大表示されます)
Gantt Chart Step 1-5.png

リスク管理

考えられるリスクについては、それぞれの発生確率(P)と、そのリスクが発生したときの重大度(I)をそれぞれ1-3の簡単な指標を考え、その積(PxI)の数が大きいものから順に対策を考えていきます。次のようなリスクが列挙されました。

リスク 確率(P) インパクト(I) 対応策 防止策
組み立てと塗装作業時に雨が降る 2 3 室内で塗装直前までを行ない、塗装に別の担当者を割り当てる なし(天気ばかりはどうしようもない)
作業できないメンバーがでる(病気や急用)る 2 3 副担当者を決めておき、その人が行なう 数日前から健康や仕事をチェックする
組み立て時に寸法が合わない 1 3 (省略) (省略)
必要な材料、道具が手に入らない 1 3 (省略) (省略)
費用が予算を超えてしまう 2 1 (省略) (省略)

それぞれのリスク項目に対し、対応策と防止策(リスクが起きないように)を考えておきます。たとえば、上記でPxIが最も大きい2つのリスクに対してはそれぞれ、上に挙げたようなといった内容を決めてみました。

Step 5b: 期待を折り込む

ここまでで、制約条件を満たし、ある程度のリスクに対応できる計画ができました。そこで、この計画をステークホルダーに見せて同意をとりつける段階が計画の最終段階となります。その前に、できあがった計画がステークホルダーの期待を満たしているかどうかチェックしてみましょう。もし期待に沿わないような点が見つかれば、そこは修正しておきます。ステークホルダーとは、プロジェクトの利害関係者のことで、プロジェクトに関わるすべての人(とシロ)です。

顧客(シロ)の期待

シロの期待は、快適な住処です。快適性が実現されるかどうかは、「ウィンコンディションをチェックする(全体デザイン)」と「ウィンコンディションをチェックする(完成チェック)」の2回のチェックポイントでチェックされます。このチェックポイントでの最重要チェック項目が、シロが快適に過ごせるかどうかでさえあれば、このチェックを通過したプロジェクトはシロに満足してもらえるものになりそうです。

メンバーの期待

実際に作業するメンバーの期待は何でしょう。仕事がうまくいくこと(それが可能である条件が揃っていること)、過大な負担(長時間勤務)がないこと、楽しくやれることなどでしょう。プロジェクトマネージャは、それぞれのジョブに人を割り当てるにあたり(ステップ4)、ジョブと人との相性を考慮しましたので、できない人には仕事を任せず、できるだけやりたいという気持ちを持っている人を起用する配慮をしました。そして基本的には1日の作業時間を8時間程度と考えて計画を作りました。

スポンサーの期待

プロジェクトには予算があります。この事例ではステップ1で「コストは1万円程度」であることを確認しました(図「ステップ1(ゴールの明確化)のDMM(改善後)」参照)。そしてこの点は、設計が終わり必要な材料・道具が明らかになった時点で設けたチェックポイント「ウィンコンディションをチェックする(費用)」でチェックすることになっています。また、ここで予算オーバーとなる可能性やその際の対応については、ステップ5aのリスク管理で考慮しました。

その他関係する人の期待

プロジェクトに直接関わらない人の期待も考えていく必要があります。この事例では、ご近所さんや配達の人のことです。しつけに関しては今回のプロジェクトの範囲(スコープ)外ですが(ステップ1で検討しました)、小屋の置き場所は範囲内です。それを考えるジョブはそれにふさわしい担当者(お母さん)できちんと計画されています。

まとめ - ステークホルダーの期待は折り込まれているか

以上のことから、今回の事例ではステークホルダーの期待はそれが満たされるように配慮されているといってよさそうです。一般的にはステップ5bの段階で、ステークホルダー(特にお客様やプロジェクトオーナー)に対して計画のプレゼンテーションが行なわれ、その場でいろいろと指摘や意見が出されますので、そういった事柄を計画に組み込み、再度プレゼンテーションするという流れになり、全員の満足が得られるまで計画が改訂されます。

この時点で計画は基準計画と呼ばれるようになり、この計画に基づいていよいよプロジェクトが始まり、計画と実際のずれがないかどうか継続的にチェックされることになります。基準計画は飛行機のコンピュータに入力されるフライトプランのようなものであり、プロジェクト遂行時に正しくプロジェクトが「飛んで」いるかどうかを示してくれるコックピットの計器となります。

ステップ5のPSI

ステップ5のPSIは10点満点で採点します。採点項目は、次の3種類です。

  • リスク管理
  • 期待管理
  • バックアップ計画、不測事態対応、エラーのためのマージン

評価 Step 5=7

リスク管理については、リスク管理表が作成されましたが、項目数は5つで、起こりえるリスクの列挙としては足りないような気がします。たとえば、庭で作業を始めてから「お隣さんから犬を飼わないでほしいと言われる」というリスクはないでしょうか。リスク管理表には、発生確率とインパクト、対応策(緩和策)と防止策(回避策)が含まれ、それら(危機管理行動)はリスクを管理しつつゴールを達成するための適切な行動となっているようです。しかし、これらの行動は計画(WBS)には組み入れられていません。したがって、5点中4点とします。

期待管理のチェックで問いかけるべき設問は、顧客やオーナーへのプレゼンテーション前に彼らの意見を想定して複数の計画オプションを用意したか、それらはゴールを満たせるか、最終的に計画の承認を受けたか、といったものです。期待に関してはステークホルダーごとに期待を検討できているようです。3点中2点点とします。

最後の点に対しては、次の2つの設問が用意されています。

  • 遅延ぎみのジョブ/品質管理上の不具合/成果物の失敗や遅れ/依存事項の不整合といったことを管理、備える不測事態対応がありますか
  • 追加の人員をプロジェクトに投入した場合の効果を考慮していますか

現実のプロジェクトにおいては、この2つについて検討した結果をきちんと文書でまとめておかなくてはなりません。事例の評価としてはここは1点。

以上のような検討の結果、事例におけるステップ5の評価は、7点となりました。まあまあですね。